猫の保定の基本を知っておこう!ポイントや注意点、保定時の腕や体の使い方など
こんにちは、動物看護師イラストレーターをしている いのぼんです。
今回は猫の診察時の保定についてのお話です。
動物看護師ならば使わない日はないであろう「保定」という技術!
ここでは動物病院の診察時を前提にした「保定法」のコツをご紹介いたします!
犬の体や動きは制御できるけど、猫はちょっと苦手…という看護師や獣医師は意外と多い気がします。
一般的な猫は小型犬くらいの大きさですが、猫独特の関節の柔らかさ、動き、攻撃技は、犬とは全く異なりますよね。警戒心の強さも、野性的な勘の鋭さも犬の上をいってます。 (>_<)
猫の保定 3大ポイント
1 安心感を与える、不快感を減らす
猫がそこから動きたくない、無理に動かなくて良いと思わせる要素を取り入れるという方法です。押さえ込むのではなく、安定した体勢を作ります。
不安を感じた猫は、狭い所に潜りこんで体を隠そうとしますが、同じように体を包む「バスタオル」を猫に使うのはとても効果的です!特に顔を覆うことで視覚的な刺激や音への恐怖も和らげることができます。
一般的なバスタオルを二つ折りにし、適度な厚みをもたせることで、猫に保定者の指の感触が伝わりにくいのもポイントです。逃げ出そうとする猫を、だだ拘束することだけが動きの抑制ではないということです。
面を使って保定する
保定は両手で主におこなうので、もちろん指を使うわけですが、この時「面」を猫に接触させて保定することです!指先ではなく、「指の腹」「手の平」「腕の側面」「手首全体」の広い面積を有効に利用するものです。
さらに、保定は手だけでなく「上半身」「肩」も非常によく使います!診察台の上でなく床の上ならば、ひざ上や両脚に挟み込んだりもします。ちなみに、バスタオルの包み込みも「面」を効果的に使った抑制方法です。
「点」の力は不快を感じやすい
そして、面の保定とは反対に「点」に力が入った持ち方は、部分的に圧が伝わるため痛みもあり、手足を掴まれることが特に苦手な猫をますます暴れさせる可能性があります。
そのため、極力2人体制で無理のない保定をしましょう。1人のスタッフで猫を保定する場合たくさん部位を片手のみでカバーしなければならず、どうしても指先に力が入り「点の保定」になってしまうからです。
それでも、比較的おとなしい猫で熟練したスタッフなら可能でしょう。しかし、動物が不快を感じにくく、安定した体勢を保てるようにすることが何よりも重要だということです。そのため、1匹の猫に対しスタッフは2名以上いるのが理想的です。
人手はかかりますが、無理な保定は猫への負担と不利益が大きすぎますので。
2 時間をかけず手早くおこなう
手早く、淡々と、無駄な動きは避けるよう徹して下さい。すばやく作業をするといっても慌ただしい動作は厳禁!猫の興奮がピークになってしまう前に処置や検査を終わらせることが鉄則です。
保定に失敗し、もう一度やり直す時間はないと思って挑みましょう!時間が長引けば長引くほど、猫に精神的なストレスとダメージを与えてしまいます…。
3 ケガをしないための準備、攻撃の予測と防御
前回は大丈夫だったから…、意外と大人しそうに見えたから…といって油断は禁物です!
まだ猫が比較的落ち着いているうちに、事前にエリザベスカラーを装着したり、バスタオルを近くに用意しておいたり、万が一猫が逃げ出した場合に対処できるような部屋を使うなど、事前準備が必須です。また、猫が隠れようと入り込んでしまうな隙間をあらかじめ撤去しておくことも必要です。
猫や動物たちにとって診察時に感じる恐怖は相当なもの…。私達には何気ない音や動作にも、猫が突発的な反応をしてしまうということを肝に銘じましょう!そのため、一度興奮し始めた猫を再び制御するのは至難の業。非常に労力と時間がかかり、何よりスタッフへの危険が伴います。
待合室や診察室での配慮について
●他の動物の姿や声・音
特に犬の姿が見えたり声が近くで聞こえたりしないようにすること
キャリーケースにバスタオルをかけてもらう、ついたてなどで目隠しする…など(犬と猫の待合スペースが別だとなお良し)
●すぐにキャリーケースからは出さない
診察室に入ってもらったら、猫はまだ出さず、先ずは飼い主様から状態をお聞きする。初めて来院して性質がまだ不明な子の場合は尚更です。
●診察室は閉め、処置室からの音や刺激を防ぐ
不用意な作業中の音やバタバタした姿は刺激になります。人の出入りも最小限にし、スタッフはコロコロ変えず、その場の同じスタッフが一貫して対応すると良いです。
●処置や検査の準備
猫を出す前に、診察に必要とわかる準備はできる限り事前にそろえてから保定に入ることで、無駄に時間を長くしなくて済みます。
●小声で会話、身振り手振りは小さく
大きな声、器具や機械の音にも注意点すること。張りのある声の方や、心配して声をかけ過ぎてしまう飼い主様も猫の興奮をあおります。
●予備のバスタオル、予備のカラー
カラーは二重にして使う場合もある。土壇場でサイズが合わないことがないよう、念のためサイズ違いも用意しておく。
●他スタッフとの連携
処置が終わってスムーズにキャリーケースにすぐ戻せるよう補助するなど、周りのスタッフともチームワークは重要です。
診察にくる猫が少ない理由
近年、猫の飼育頭数の割合はどんどん増えて犬の数と並ぶほどになりました。今まで犬派だった方が、猫の魅力を知った方や、室内での生活のさせ方の正しい知識により、飼いやすい動物として見直されてきたのかもしれませんね。
しかし、犬ほど動物病院に診察にくる猫の数はまだ少ないようです。警戒心の強い動物の猫は、いつもと違う状況や人間、他の動物、音、匂いなどに敏感です。本能的に身を守る行動が特に出やすいため、いわゆる「猫が暴れるので病院に連れてくのが一苦労、不可能、咬みつかれて大変だった…」という理由で、病院に連れてきてもらえないパターンが少なくありません。
スタッフ教育の必要性
また、動物病院側も猫の行動に精通したスタッフがいるとも限らないのも事実です。そのため、もっと猫という動物を正しく知り、行動学を最大限取り入れた診察が提供できるよう努めたいものです。
診察がスムーズに行うためには、猫や犬達に診察を受け入れられやすくなる事前のトレーニングが必須です。
→「キャットチャンネル」入交先生が解説する猫トレーニング動画こちら
そして、「保定」は暴れる動物をただ押さえ込む技術と思われがちですが、動物看護師は習得すべき保定技術について正しく理解しなければいけないと思います。
形だけを見よう見まねでは、力ずくで取り押さえてるだけになってしまうこと、何より窒息や臓器の損傷の危険もあるからです。
やり方が不適切で未熟な技術では、動物に無駄な苦痛を与えてしまい反対に暴れさせてしまいます。
その動物本来の習性や行動について病院全体で知識を共有してこそ、最善の治療になります。
そして、「保定」は動きを制御するだけでなく、第一に動物とスタッフの安全を確保するもの。猫のため人のため、お互いにとってメリットがあることなので、日々努力していきたいです (^^)/