ペットの救急・動物の心肺蘇生の方法【人工呼吸について】

【意識の確認と人工呼吸・編】その1

家族である大切なご自身のワンちゃんが突然倒れていたら!!意識や脈はあるのか、人工呼吸は必要なのか、どのように確認して息を吹きこめば良いのか…などの方法について説明します。

散歩中の交通事故や熱中症、火災現場での煙の吸引、溺水など…、いざという時のために自信をもって対応できるように!助かる可能性がある、救える命のために準備しましょう!(‘◇’)ゞ

心肺蘇生とは

CPR「心肺蘇生」とは、呼吸と心臓の拍動が停止した状態に救急救命措置のために行う処置のこと。

人工的に呼吸と循環を補助をします。CPRは「cardiopulmonary resuscitation」の略です。

ペットの心肺蘇生法

バイタルチェック・人工呼吸について

先ずはバイタルチェック(生命の兆候・意識の確認)と人工呼吸から解説していきます(^^)/

要するに息をしているのか、心停止しているかの確認です。バイタルチェックは迅速に行い、心肺蘇生を開始か否か判断しなければなりません。

判断にまよった時は…

意識と呼吸がなければ心肺蘇生を直ちにスタートなのですが、確認がうまくできず迷う場面があるとおもいます。

呼びかけに全く反応もなく倒れていて、不規則だが少し息をしているようにみえる場合や、心臓の拍動が触っても自信がなくてよくわからない時など…。

通常と明らかに違う不自然な呼吸
呼吸が無いと判断

そして、脈拍の触知や心臓の鼓動を確認するのは、いざ緊急時では案外むつかしく、血圧低下していれば脈もなかなか感じ取れません。

脈が確認できない、よくわからない
心臓マッサージを始める決断

脈の確認のために時間をかけてしまうことは避けるべきです!まよった時は、胸部圧迫をスタートしても間違いではありません。

もし、心臓が動いていれば胸を押されるマッサージの刺激を嫌がったりして、動物が何か反応をみせるはずです。

 

⇒犬や猫の心肺蘇生法「心臓マッサージのやり方」はこちらの記事へ

人工呼吸は必須なわけではない 

ちなみに人工呼吸は、必須ではなく省略してもよいとされています。

一般の方の場合、人工呼吸が効果的に実施できてないケースも多くためです。それよりも、胸骨圧迫(心臓マッサージ)を1秒でも早く開始して、絶え間なく行う方が救命率は上がります。

※溺水の救助の場合は、人工呼吸は重要になりますので、可能であればできる限り実行することは必要です。そこで、上手く肺に吹き込めてないと感じたら、気道の角度などを見直して2回目を吹き込んでみますが、何度もやり直したりはせず、直ちに心臓マッサージの処置に移ってください!

1 意識、呼吸、脈の確認をする

意識の有無の確認の例

♦手を叩いたりして音や声で呼びかける
♦瞬きや視線を合わせるなどの反応があるのか
♦全身の筋肉の弛緩、尾や後肢の力の抜け方で見る
(持ち上げても手を放すとダランと落ちる)

呼吸と脈の確認の例
♦手の平を心臓部にあてて、鼓動を触って感じる
(大腿部の脈を探したり、耳をあてて音を聞くのは意外と難しい)
♦呼吸の上下の動きを見る、胸部に手を置いて感じる
♦顔を近づけて鼻からの吐息を感じる
(ティッシュや毛など軽いものを近づけてみる)

  ↑
確認は6秒以内に
(10秒以上かけてはダメ!)

上記の方法で意識と呼吸の反応が無ければ、直ちに心肺蘇生を開始します!
かかりつけの動物病院にも連絡して、これからすぐに来院することを伝えておきましょう。

  • カルテ番号と名前(飼い主と動物)
  • 意識と呼吸の有無、状況など
  • 到着予定時間

※カルテがない子の場合は、動物種とおおよその体重(小型なのか中型犬なのかなど)は最低限の情報として知りたいです。

脈拍の確認について

脈拍とは、心臓のポンプが動いて全身に血液を送り出す際に末梢血管の壁に伝わる振動(拍動)のことです。

人間の場合は、手首の親指側(橈骨動脈)、喉の横側(頚動脈)が一般的ですね。犬や猫の場合は、太ももの内側にある大腿動脈ではかります。

しかし、脂肪があつかったり血圧がしっかり保たれていない時などは、触ってドクドクと感じるのは難しいはずです…。

やはり一番簡単なのは、胸に手を置いて心臓そのものの鼓動を感じる方法。心停止しているのかどうかのバイタルチェックができればよいので、緊急時はどちらの方法でも構いません。

犬の大腿静脈の位置、脈拍

【大腿動脈】 人差指と中指の2本を太股中央、脚の付け根辺りに軽くあてて脈拍を確認する方法

 救助者が一人の場合 
脈の確認ができなければ、直ちに心臓マッサージをスタート!

1分間に100~120回のペースで、胸部の高さが1/3沈むくらい胸部圧迫(心臓マッサージ)30回続けます。その後、人工呼吸2回を行います。

 二人以上いる場合
人工呼吸をする人と胸部圧迫をする人に分かれて、できる限り2分間連続で胸部圧迫を絶え間なく行い心臓と脳への血流を促します。

救助者の疲労により圧迫が効果的に行えなくなるのを防ぐため、約2分間ごとに役割を交代して心肺蘇生を絶え間なく繰り返します。同時進行で人工呼吸を10回/分を行います

つまり、二人でできるのであれば、人工呼吸2回のために胸部圧迫を途中で中断しなくてもよいということです!連続で、絶え間なく圧迫することが重要です(‘◇’)ゞ

2 犬や猫の人工呼吸/やり方とポイント

動物病院には人工呼吸器があり、気管内にチューブを通して(気管内挿管)確実に酸素を送ることができます。しかし、倒れていた発見時が自宅や屋外の場合、呼吸の補助は人が息を吹きこむしかありません。

人と口の形が違いますので、「マウス・トゥ・マウス」ではなく、鼻孔(鼻の穴)から息を吹き込む方法「マウス・トゥ・ノーズ」です。

ちなみに、近年では感染症の問題もある為、人の救助の場面でも安易にすべきではなく、一般の方が実施する時は省略する方向となっているようです。

気道の確保と口腔内の確認をする

先ずは、鼻孔と気管の入り口、気管のラインを一直線にするイメージで、顎と首の角度を調節します。

ただし、首を損傷している可能性もあるため、頚部を持ち上げたりねじったりしてはいけません!倒れている横向きのままにして極力動かすのは最小限にします。

犬の気管の構造と気道確保

【人工呼吸・気道確保のポイント】

 ポイント 

鼻孔、口頭、気管を直線にする
首を引っ張るというよりは、顎と鼻先を少し上にそらせるような角度です。

犬歯に指をひっかけながら、上顎だけを持って角度を調節するとやりやすいです。(人の気道確保のように下の顎を引っ張って首を伸ばすと、気管の入口を圧迫してしまうので✕)

舌を外側に引き出す
舌の根本に気管入り口があるので、緩んだ舌の筋肉で入り口が塞がるのを(舌根沈下)防ぎます。

ただし、ひっぱり過ぎるのは気管入り口を狭めてしまうので、少し外に引き出す感じで充分です。

異物のチェック
口を開いて喉に何か詰まっていないか目で確認してください。もし届く位置に何かあればで取り除きます。

この時、頚部損傷の可能性を常に念頭に置いて動物をの首を持ち上げたりせず、自分の頭を床に近づけて覗き込むこと

また、突然意識が戻った動物に嚙みつかれる危険もあるため、慎重におこないます!取り出すために時間を費やすことはできません。取れなければ直ぐに動物病院に向かってください!

ペット動物の救急対応の解説イラスト

【口の中の確認】

鼻から1秒かけて息をふき込む

  1. 鼻筋に両手親指を添えてつかみます。
  2. 動物の舌を外側へ引き出したまま、上下の口の皮膚(口唇)を合わせて閉じます。
  3. 口の横から息がもれないように皮膚をかぶせて隙間をふさぐ感じです。(強く掴まなくてOK)
  4. そのまま、動物の鼻から呼気を1回「ふー」と吹き込みます。(呼気とは、吐いた息のこと)

 

動物の肺の大きさに合わせた空気を送りこみますが、入れ過ぎないよう慎重に行います。

胸部の表面が少し持ち上がるのを目で見るか、手の感触で確認します。

犬の人工呼吸のやり方とコツ、ポイント

 ポイント 
●1秒かけてゆっくりと吹き込む×2回
●肺が少し膨らめばOK(ふきこみ過ぎない)
●動物の大きさに合わせて息を調節
●鼻腔(息の通り道)を塞がないように鼻筋を持つ

人工呼吸時の保定、犬の鼻腔

【保定時の注意】

3 換気量と肺の大きさについて

 推奨される換気条件

●換気回数 10回/分
●1回換気量 10ml/㎏
●吸気時間 1秒
上記は、人工呼吸器の設定です。病院であればこのように設定して管理ができます。

しかし、自宅や屋外ではそうはいきませんので適切な換気量については以下のことを目安にして下さい。

適切な換気量とは、この場合「吹き込む息の量」のことですが、動物の体格によって肺の容量に大きな差があります。もしも、男性などの肺活量のある方が小型犬や猫に思いっ切り吹き込んだら、肺が破れてしまう危険もあるということを注意してください!

 換気量の目安として 

1秒間かけて呼気を「ふー」と送り込んだ時に少し膨らむ程度に胸の高さが上がる感じです。息を吹き終わったら肺の膨らみは、同じく1秒かけて元に戻ります。(上下の呼吸運動)

ただし、1秒以上かけすぎると胸腔内にかかる圧で心拍数を減らしてしまうので注意しましょう。

 日頃の呼吸の様子を見ておく 

普段の生活で添い寝などをして動物の胸腹部の呼吸(上下)運動を見ておくと良いと思います。落ち着いている時の呼吸数や胸の膨らみ程度をおぼえておきましょう。その子の呼吸を一緒に真似してみたりして、吹込み量の目安をイメージしておくのがおすすめです。

日頃から、通常の状態を知っておくことで、呼吸回数・リズムの異変・いつもの舌の色がチアノーゼ(酸素不足で舌の血色が青みがかる)を起こしているかなど、異常な呼吸にも早く気づくことができるはずです!

 呼吸回数について

●小型犬・猫(10㎏未満)
20~40回/分
●中型(10㎏~23㎏未満)
10~30回/分
●大型犬(24㎏以上)
10~30回/分

4 人工呼吸時に吐いてしまった時 

吹き込んだ息が多すぎる時や、溺水の救助場面では、人工呼吸時に吐いてしまうことが多々あります。

気管と食道の入り口は接近しているので、たとえ鼻腔を通って息を吹きこんでも、空気が胃に入ってしまうこともあります。

その場合は、胃の内容物が逆流してきたり、入った空気はお腹に溜まっていくので見た目に膨らんだまま(胸部よりも下側が)になります。(肺の場合、正しく呼気が入っていれば同じ量の息が出てきますので、膨らんだ肺は元の高さにすぐ戻るはずです)

意識のない状態で嘔吐があると気管側に流れていってしまう危険(誤嚥)が高いです

吐いたものが逆流しないよう頭部側を低い体勢にし、すぐに口の中の吐物をかきだします。喉の入り口付近に粘性の吐物がついているなら、布などを指に巻いてをぬぐうなどします。

 

※上手く人工呼吸ができてない可能性がある時は、胸部圧迫に徹しましょう!

※失敗しても人工呼吸は2回まで!何度もチャレンジしたりはせず、まよわず心臓マッサージ30回に進みましよう。

5 脈拍数について 

●小型犬・猫(10㎏未満)
120~200回/分
●中型(10㎏~23㎏未満)
60~120回/分
●大型犬(24㎏以上)
60~120回/分

普段の安静時に手で触っておきましよう。場所を確認できたり、健康な時のリズムや脈拍数、脈圧(手に感じる脈の強さ)を知ることができます。

1分間の脈拍を数えるか、15秒間でカウントして4倍にした数でも良いです。

6 心停止直後にみられる「死戦期呼吸」とは

通常の呼吸があって、触れる程度の脈が確認できれば、心肺蘇生は必要ないので、そのまま動物病院に連れて行く準備をしてください。

しかし、一見呼吸をしているように見える死戦期呼吸を見誤る場合があるので注意してください。心停止直後に見らることがあり、ほぼ呼吸中枢機能は消失した異常呼吸パターンです。ただちに心肺蘇生をスタートしてください!

口は動いていますが実際は息は吸えていない状態です「あえぎ呼吸」「下顎呼吸」と呼ばれることもあります。

  • しゃくりあげるような呼吸
  • ゆっくり下顎だけを動かす
  • 息を吸い上げる感じの不自然な動作
  • 胸は上下に動いてない

判断に迷った時は…

繰り返してお伝えしますが、意識や脈がはっきりせずよくわからない場合は、確認に無駄に時間をかけるよりは、ためらわず心肺蘇生をスタートさせてください

救命率は、開始が1分遅れるごとに7~10%下がるデータがあります。1秒でも早く心肺蘇生を開始することで助かる可能性がUPするのです!

もし必要でなかったとしても、動物が動き出したり通常の反応を示し始めたらやめればよいのですから。

 

♦意識と呼吸が無いが、確実に脈が触れる場合 →人工呼吸を10回/分で繰り返す

♦死戦期呼吸や、途切れ途切れの不規則な呼吸で意識もない →通常の呼吸ではない場合は、呼吸停止とみて心肺蘇生を開始

犬や猫の心肺蘇生法「心臓マッサージのやり方」の記事はこちら!

 

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